バベルの図書館 への旅

坂本なんとか

先週末、奈良に行った。午前中のうちに友人の家で車をお借りして、暴風を避けるため、下道で向かう。ナビにしたがって進む途中、法隆寺へ立ち寄る。「法隆寺へ一番近い駐車場、一回600円」に停めて、無人の料金箱の上へ、一応お金を置く。境内へ入るのには1000円かかった。五重塔の中は中世のグロッタを連想させるような、切り出しの仏像が何十体も並び、東西南北全ての方角に置かれている。本殿の薬師如来も面白いが、一番驚いたのは最近ようやくお堂が建てられた百済観音だ。回廊からお堂に入り、像を横から見上げる位置に立つ。腰の力を抜いたとても自然な立姿で、ふくよかさとは程遠い、軽やかな姿勢。飛鳥時代の仏像のことについては、ほとんど無知だが、どれもこんな自然な寛いだ姿をしているのだろうか。なんというか、百日紅とか、そういう植物に近い気がする。ほかにも夢殿や大宝蔵院( 金堂本尊天蓋の天人、六体仏、玉虫厨子)まで見られて1000円はお得。市内に到着したのは午後一時過ぎ。目当ての店が正月休みだったため、カナカナに変更。100円パーキングに駐車し、店まで歩く。カナカナでは、鶏のカレーと定食みたいなのをいただく。クリームコロッケの和風あんかけが風邪の体にやさしい。そこでくつろいでいるときに見ていた奈良本に古本屋情報が掲載されていたので、行くことにする。一軒目は、酒仙堂という土日祝の昼から夕方まで営業の変わった本屋。ここの変わっている点は、他にもいろいろあって、三間あるうちの二間までが畳敷きである(「畳でくつろげる古本茶論。」もう一間は埃っぽいコンクリートの土間である)。17時以降は「パブタイム」らしいが、この日も知り合いらしい男性がビールをもって登場した。また、奥の間はパブ、くつろぎスペースなだけでなく、プラモデルやら「懐かし」グッズも売っており、目が離せない。半額棚で、バラードの『永遠へのパスポート』を発見。早速の珍品発見に心踊っていると、童主がほうじ茶をいれてくれた。彼の話によると、どうやら今日は若草山の野焼きの日らしいが、前日の雨でどうなるか、ということらしい。京都の大文字などとは違って、若草山は本当に山の草全部焼くことに目的があるため、事情で延期されることもあるそうだ。お茶をあおって、次へ急ぐ。奈良町を進み、下御門町商店街の十月書房、朝倉文庫、智林堂、フジケイ堂を回る。中でも朝倉文庫は、ミステリーやSFが揃っており、気になる件が多かった。とりあえず前々から探していた講談社文庫を一冊購入。回り終えたところで、引き返し、「界」で少し物色したあと、車に戻る。この頃には日が落ちており、西の赤く染まった大阪の方目指して発進する。生駒と奈良を結ぶ道路沿いにはラブホテルが多い。それを過ぎると、生駒山上から大阪の夜景が見えた。宿は心斎橋のホテルT'POINT、夜御飯は南船場のガーブで食べる。甘カルパッチョってそんなに凄いと思ったことはなかったけど、ここの甘エビのは本当に美味しかった。寒風の中、ホテルに戻る途中アイスを買って、風呂上がりに食べることをもくろむ。
翌日は昼前に起きて、一階のレストランで朝食を食べる。昼過ぎに東大阪司馬遼太郎記念館に到着。入り口の券売機で入館料500円を払い、足を踏み入れると、まず最初に彼が愛でた庭がある。ここは雑木林風の作りになっており、シイやクスやクヌギの木が歩道を包んでいる。そのすぐ脇には書斎があり、彼が遺作を執筆していた当時のままの姿を見ることができる。庭と書斎が彼の作品世界への導入を果たしているような印象を与える。館の入り口は外壁の弧を描く長く明るい通路になっている。館内に入って少し進むと、すぐに例の巨大な書棚を見下ろす場所に出てくる。採光部から入る柔らかい光が本の背表紙に反射してさらに柔らかい。展示エリアへは左手の階段をおりるのだが、その途中の踊り場にも小さめ採光部がある。下から見上げる書棚はさらに圧巻。本に埋もれて死にたいと思っていた小学生の頃に来たかった。安藤忠雄のスケッチにもあるように、誰もが圧倒的な本の量、そしてそれが意味するのが一個人が手にした膨大な情報/文字であったことに気付いて、仰ぎみずにはいられない。展示は「空海の風景」の題されており、彼の構想の断片が地図やかき込み、原稿などから伺えるようになっておる。その他にも、初版本や、様々なゆかりの品(自筆原稿・色紙、「懐中時計が好きでした」「お洒落のバンダナ」など)も展示されており、「21世紀の君たちへ」と題された文章は教科書を見ているような書体、印刷が素敵だった。また、館の隅には坂本竜馬がコンクリートの天井に浮き出ている不思議スポットも用意されている。司馬遼太郎記念館を後にし、石切神社に向かう。思いのほか石切駅周辺は渋滞しており、臨時駐車場に車を泊め、歩いて参道へ向かう。参道脇のコマカフェで休憩。sonnetのこだわりドーナツと浅煎りコーヒーをいただく。疲れた喉にこのコーヒーがちょうどいい具合。ドーナツもおいしく一時間ほど、休む。石切神社の参道は噂に違わず占ストリートで真剣そのもの。神社まで上ってお参りしてから、さらに山の上にある駅まで歩くことにする。その途中にも土産物やら怪しい看板(「仏の願いはそのまま、あなたの願いはわがまま」)やらがあり気が抜けない。駅の直前には大仏も鎮座していた。駅を迂回し、一つ南側の筋を入って、山を下りる。ちょうど茜色に染まって、団地やら、普通の民家やら、公園やらがきれいに見える。大島弓子のマンガの主人公なら「映画よりきれいじゃん」と言うだろう。高野文子の場合は「たとえば三十年たったあとで、こうしたことを思い出したりするのかしら 子供がいて、大人になって、またふたりになって 思い出したりするのかしら この町で」。遠くには大阪市内のビル郡も見えた。手前にはライオンズマンションがあって、公園を過ぎて、まっすぐ西に向かって下って歩く。
その後、堺へ戻って石津の龍旗信で塩ラーメンを食べ、友人を送って車をお返しし、帰宅する。