theエッセイ 第○●回

昨夜レンタルビデオ屋に行こうと深夜0時頃玄関で靴を履き替えていると、突然忘れていた記憶が浮かんだ。小学校5、6年頃のことである。家族が寝静まると息を殺して、靴を履き、扉をあけ、マウンテンバイクに乗って家を出たのである。校区のちょうど重心にあたる辺りの田んぼに友だちと集合し、僕たちは何を話してたのだろう。残念ながら全く思い出せない。覚えているのは、強烈な罪悪感と、暑くもなく寒くもない、植物やら虫やら水やら車の匂いだけが強い五月の夜の空気の感じだけだ(暖かくなると植物だけでなくあらゆるものが匂いを吐き出す)。記憶が蘇った引き金はたぶんここにある。朝が来て、家族が目を覚ます前に、一人自転車に乗って30分の道のりを帰るとき、小学生のぼくが何を考えていたのか、もちろんそれも覚えていない。