中庭の木

大阪を出る日、朝病院に寄った。喫茶室でコーヒーを飲んで、あいさつして、バスに乗った。いろんなことが頭をよぎって、胸が詰まる思いもあったが、今おばあちゃんは元気にご飯も食べて、大部屋に移ったそうだ。
改札まで見送ってもらって、新幹線に乗った。昼過ぎに品川に着いて会社にあいさつに行った。シェアメイトと会うまでの時間、森美術館に行くことにした。「笑い」をテーマにした二つの展覧会。ジョン・ウッド&ポール・ハリソンの作品もとてもおもしろかった。大倉山の駅前で二人と待ち合わせ、駅前のお好み焼き屋に入った。ビールでとりあえずの集合に乾杯。
三日間ほどの中休みには、区役所に行ったり、部屋の片付けをしたりして過ごした。こちらに来るのと同時に春も来たみたいに、マンションの前の庭に大きな桜が咲いていて、自転車で近所を回るのが心地よかった。土曜日にはレンタカーを借りてリサイクルショップに行ったり、ららぽーとに行って買出しもした。日曜日には餞別にもらったたこ焼きセットで大量にたこ焼きを作って食べた。大阪育ちさらに実家の店で昔たこ焼きも出してたというのに、自分が一番ど下手。たこのマークに近いところは低温だという取説にすがる。
働き始めは色んな方向にアンテナを張らないと反応できないので、疲労も多かったが、一週間たって、いくぶん数を減らしても対応できるようになった気が僅かにする。これからどうなるのかわわからないが、色んなことが変わっていく気はする。とはいえ、変わらない自分がドラえもんを見たり、ここで日記を書いたり、ご飯作ったり、散歩して一人笑いしたりしている。
仕事で小田急線に乗ることがあって、本厚木まで行った。途中の世田谷はサザエさんが住んでいる町としてしか記憶になかったが、なるほど住み心地のよさそうな、ゆるやかな起伏のある町だった。偶然、『中国行きのスロウ・ボート』を読んでいて、その中に「午後の最後の芝生」という短編が入っていた。物語は経堂にある芝生を整える会社でバイトする男の話で、神奈川にあるどこかの家に最後の芝生刈りに出かける。小学校の国語の教科書に掲載されていた「春の郊外電車」の挿絵のように、建物の間隔が広がり、緑が増える窓の外を眺めていると、本の中の光景と電車の時間が重なるようで楽しかった。一時間半ほどただ座っていると、大小の都市、街が通り過ぎていく。始発駅の新宿ほどではないにしても、そこそこ大きい中規模の街がこんなに多くあるということが不思議だった。本厚木の向こうにもまだまだ続いていそうで、大人のブーツも子供の上履きも色んな形の靴が入った靴箱かなにかのような、それとも違うような変な感覚だった。
最近見た映画 『秒速5センチメートル』、『ドラえもん のびたとふしぎ風使い』、『かもめ食堂』、『グエムル 漢江の怪物』