霊魂用鉤形骨

exterior2006-08-04

今日読んだ本、レジス・メサック『滅びの島』
ある医学調査団が訪れたチリ沖の島には、不可解な姿をした人類が生存していた。汚濁と暴力と近親相姦にまみれた社会は、陰湿な島の風土がもたらした結果なのか、公害=環境汚染の結果なのか。団員は次第に彼らと同じ姿へ変貌していく。
1943年に書き下ろされたこの長編は、公害を予言した怪作と銘打たれている。SF小説を予言書としてとらえるのはいいけど、評価してしまうのは疑問。むしろそこに書かれた当時なりのアクチュアリティが存在するはずだ。たとえば島民の醜悪さをクレチン病患者のための語を用いて様々な比喩展開しているところなど。
「そして現在のわれわれ、われわれの壮大な記念的建造物、われわれのエッフェル塔、われわれの大きな駅、われわれの水道、われわれの摩天楼、パナマ運河の巨大な水門、そのすべてが……未来の遺跡を構成するにいたるのかもしれない。おそらくは、いつか巨大なヴァルクレタン島と成り果てるであろう地球にとって。」
短編「蜘蛛の音楽」
「しかし今より後はもっぱら感覚が真なりと告げるもののみを信じること、それ以上の要求はいたしません。ただひたすら、見ること、見ることのみに、そして次に、聞くことに専念していただきたい。」
「蠅ですと?いかにも、蠅にはちがいありません、ただし金の蠅、宇宙の果て、はるかな極み、天空の精気にみてる境涯に遊ぶ金の蠅、その意味に解釈すべきなのです。そして、そのような蠅の羽音こそ天上の音楽、星々の奏でる諧調の和音なのです。」
麻周堯という人の翻訳がいい。作家は、この長編を記した直後だろうか、1943年のうちにナチスに検挙され、行方不明になった。どこの収容所で死亡したかはいまだに不明らしい。