新しい心理

exterior2006-02-01

SF小説なんかを読んでいると、主人公は食料に窮したり、移動に苦労したり、様々な困難に出会うが、最近読んだバラードの「沈んだ世界」の終盤にはこんな男が登場する。
「骸骨のような長い爪の生えた、片方の手が、突然墓の中から突き上げられた手のように持ち上げられ、確かめでもするように太陽のほうを指さしたが、やがて力なく地面へ落ちた。」
この「長い爪」、というのが気になる。食べ物はほとんど手に入らないのに、爪だけはのび続けてしまうことの恐怖。爪を研ごうにも荒れた地面の上を掻きむしるがけで、まったくなめらかな曲線にならない。爪先がガリガリと欠けていくだけ。飢えよりも、文明への渇望よりも、爪や髪や鬚がのびつづける自分の体こそが身を削っていくのかもしれない。