概念の地平線

White shirts。何十人もの女性が一枚のシャツに刺繍する、針を通す手のアップと女性らの顔をタイルのように埋め尽くされる。かつて通天閣で見た千人針のような情念の堆積とでもいえるような厚みは感じられない。memories。比較的サイズの小さい写真に、記憶の情景を語るテクストや写された場所で採集されたのであろう音が併置される。「記憶」というより「物語」に近い印象。つまり記憶を再現しているというよりも、記憶「らしい」「に相応しい」映像の提示として受け取ってしまう。母の腹、自分を出産した際に負った裂傷の跡、を好ましいもの、誇らしいものとして提示する写真は、似た形態をもつ石内都のそれとくらべるとあまりに感傷的な気がする。そういう意味ではa familyを観て友人がもらした、ドラマチック、という表現は適切だと思う。感傷的であることの是非はともかくとして、新作family projectが鑑賞者に与える、不穏さあるいは距離感は彼女の作品群の中では異例かもしれない。それにしても実は他人が集まった家族写真であるという情報を知らずに観たときとの落差は大きい。作品は作品で完結せず、前景が突如背景になってしまう。

  • 宮本佳明(みやもと・かつひろ)展『巨大建築模型ミュージアム〜環境ノイズエレメントを解読し、都市を設計せよ〜』

関空はいずれ水没するという身もふたもない前提のもと、考案された「大阪国際不条里空港」や、震災後全壊認定された住居は解体の補助金は支援されようとも補修資金という制度は存在しないことへのアンチテーゼともいうべき「ゼンカイハウス」など。なかでも興味深かったのは首都移転という長らくの論議に新たな切り込みを入れた「近つ飛鳥宮古市古墳群首都移転計画」。候補地として近つ飛鳥を挙げる。当該地には永久に排除されない古墳が数多く点在するが、宮本はこの環境ノイズエレメントを住民と地形が新たな関係性を見出すための糸口になるのではと画策する。ノイズ概念が建築にも登場することを初めて知った。うーんおもしろい。

赤瀬川原平老人力 全一冊』ちくま文庫、読了。

物事や経験を概念的に語ることの限界を感じる。というか掘り下げずに前進すること、移っていくことの必要性と、その行為に馴染めない自分との間に生じる断絶..。考えろ考えるな考えるな考えろ